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貴族探偵エドワード
大国アングレの首都、ロンドラ……。
その広大な都市の南の外れにあるフォックス通り25番地。
コツ、コツ、コツ……と堅い木の床を鳴らす、静かで規則的な靴音。
ギィッと鳴る、寝室のドア。
カーテンを勢い良く開ける時の、シャッと言う音。
そして。
「エドワード様!お起きになってください!」
『シーヴァさんは大変そうだな』
『笑っちゃダメだよ、カイリ』
リクとカイリは瓜二つの顔を見合わせ、笑いあった。
「おはよ、二人とも」
『おはよ、トーヤ』
『シーヴァさんの声、こっちまで筒抜けだよ』
互いに窓を開け、そこで3人は会話をする。
バルフォア校ではオーク寮とエルム寮に分かれていたのだが、トーヤ、カイリ、リクは同じ学び舎で生活していた。
もっとも正式な理由無しで中退したトーヤとは違い、カイリとリクは父親の赴任先が変わったので学校を辞めた。
トーヤがグラッドストーン探偵事務所に転がり込んだその日。
”助手見習いの採用試験”と称した、トーヤの身の回りの物を揃えに行った先の中古家具屋で3人は再会を果たした。
旧友との再会ということで話は弾み、トーヤがカイリたちに今の家の住所を尋ねると。
『まさかエドワード先輩がお隣さんなんて、僕知らなかった』
『リクは滅多に外に出ないからな』
双子として生まれたはずなのに、兄のリクは病気がちで華奢で外出することなど稀である。
反対に弟のカイリは健康体で、外で活発に遊びまわり、体格もリクを上回る。
外見だけを見ると、カイリが兄でリクが弟のようだ。
リクはトーヤよりも更に小柄で、ともすれば少女に見間違えられることもあるくらいだった。
そのせいもあってか、カイリはリクを常に家の中に居させたがる。
今は法律で禁じられたとはいえ、昔はアングレでも人身売買があった。
そんな闇の中で生きる人間たちには、リクは上玉として見られるのである。
「やぁリク、カイリ、おはよう」
『おはようございます、先輩。おはようございます、シーヴァさん』
首都近郊の領主の家柄で、上流階級の出でもあるリクとカイリ。
しかしリクはシーヴァや他の使用人、領民たちにも常に礼儀正しい。
年長者を敬い、同年代のものにもきさくに、そして丁寧に接する。
そのことが、リクがバルフォア校で同級生たちに軽視される理由となった。
しかしカイリが人望が厚かったため、リクは決して虐められることは無かった。
ちなみにリクはエドワードの当番生であり、エドワードに可愛がられていたのも、リクが虐められなかった理由の一つである。
「おはようございます、リク様、カイリ様」
『おはよ、シーヴァさん』
カイリもリク程ではないが、使用人などに対しても礼儀正しい少年である。
何分下町好みなため、ロンドラの安アパートにリクと共に移り住んで暮らしている。
『なぁトーヤ。今日は仕事何かあるのか?』
「え?エドワード、ある?」
トーヤはすぐ傍のエドワードに尋ねる。
「いや、今日は依頼は入ってない」
「だって」
エドワードの言葉をトーヤが受け継ぎ、答える。
『じゃあうちに来ないか?オレンジぺコの茶葉が手に入ってさ。リクにクッキーでも作ってもらって……』
『僕?』
『うん。だってリクの作る料理とお菓子、俺好きだもん』
可愛い弟にそう言われては、リクもまぁしょうがないな、と思う。
「私もお手伝いさせていただきます」
『ありがとうございます、シーヴァさん』
シーヴァのありがたい申し出に、リクはペコリと頭を下げた。
『先輩もいらっしゃいますよね?』
「もちろん、お邪魔させていただくよ」
めくるめく午後のティータイムの、始まりはじまり。
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