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テニスの王子様




『なぁ、侑士呼んでくれる?』


それは、きっと偶然。
たまたまドアの近くに居たのがお前だったから。


『忍足、呼んでるよ』
「あぁ、おおきに」


の言葉に忍足はニコッ、と笑う。
その人好きのする笑みにつられて笑い返した後で、は忍足の傍を通り過ぎた。


「どしたん?」
『お前いい加減に俺の英和辞書返せよな……ところで、さっきの美人、誰?』
「神崎か?」
『下の名前は?』
「確か……やったと思うけど」
『へぇ……』


の後姿を見ながら、は笑う。
その瞳は、獲物を見つけた獣のようだった。
そんなを見て、忍足は苦笑する。


「神崎は止めとき。アイツは遊びには向いてへんで」
『なんでだよ』
「神崎は……なんか儚いねん」


淡雪、朧月、散華。
はいつも窓の外の遠くを見つめ、切なそうにして生きている。


「下手に手ェ出したら、消えてまうで」


忍足の言葉は、今もの胸から消えてはくれない。



……起こしちゃった?』


月明かりを背に受けて、は微笑む。
その様子はとても幻想的で、は思わずを抱きしめた。

互いに一糸纏わぬ姿で、体温が直に伝わる。


、消えるなよ』
『消えないよ……、逃がしてくれそうにないし』


白い肌、茶色い髪と瞳。
色素が薄いと、はいっそう華奢に見える。


『忍足に、また何か言われたの?』


クスクスと笑い、の背中に手を回す。
自分の存在を示すために。
を安心させるために。

のものとなった今でも、忍足はに警告する。
今のうちに、手を引け、と。


『俺は、が好き。ずっと、の傍に居るよ』
『……本当だな』


声は震え、抱きしめる力は強くなる。

あの日、を見つけていなかったなら。
は今頃、の腕の中には居なかったかもしれない。


が、俺を見つけてくれた。榊センセイのこと、忘れさせてくれた』


榊の名を聞くたび、の心中は穏やかでなくなる。

昔、の心を占めていた男。
あんなにも、が恋焦がれていた男。

の顔が歪むのを見て、は頬を膨らます。


『だから榊センセイのことは過去だってば。……こんな風に言えるようになったのも、のおかげなんだよ』


が居てくれたから、今は平気で笑っていられる。
がそう言ってくれたのが愛しくて。


『世界で一番が大好きだよ。愛してる』
……俺も、お前だけを愛してる』


は思わず、涙を溢れさせた。


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