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Junk

Whistle!




私じゃ、貴方の代わりになれないから。


お兄ちゃん!」
『有希』


高校、という新しい世界に飛び込んで、しばら会えなかった兄。
たった1年でも、寂しくて仕方なかった。


『お、小島妹じゃん』
先輩……こんにちは」
『俺も嫌われたもんだなぁ。な、


そう、お兄ちゃんの傍にはいつも貴方が居て、それが当然とでも言うように笑っている。
私がお兄ちゃんに追いつくために頑張っているのに、貴方は何もせずお兄ちゃんと一緒に居る。
私の知らないお兄ちゃんを、貴方は知っている。


『有希?どうした?』
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは彼女とか、好きな人居ないの?」
『は?お前いきなり……どうしたんだ?』
「答えて、お兄ちゃん!」


お兄ちゃんの顔を見つめる。
明希人お兄ちゃんはかっこ良いけど、お兄ちゃんはキレイ。
二人とも昔から女の子にもてて、男子に好かれてて、サッカーが上手くて。
お兄ちゃんは頭も良くて、ずっと私の理想の人だった。


“有希!フットサルでも行くか?”
“え?連れて行ってくれるの?”
!明希人や貴方と違って有希は女の子なのよ?!”
“母さん、男とか女とか関係ないよ。有希はサッカーが好きなんだから、親なら子供のやりたい事させてやるべきだろ”
“それはそうだけれど……大体、貴方もうすぐ公立受験でしょう?!”
“あ……”


あの頃のお兄ちゃんは、私と違って、中学3年生で。
受験生なのに、サッカー部の指導にも付き合ってくれて。
わざわざ押入れから中2の頃の教科書を引っ張り出して、私やカザたちのテスト勉強を見てくれて。
考えてみれば、ずっとお兄ちゃんに迷惑かけっぱなしだった。


“兄貴が構ってやれない分、有希は俺と遊ぼうな”
“うん!お兄ちゃんだーいすき!”


ずっとお兄ちゃんの後ろを付いて回って、いつも一緒に居てくれて。


“有希、フットサル行かないのか?”
“お兄ちゃんの受験勉強の邪魔しちゃいけないから……”
“なーに言ってんだ、お兄ちゃんはそんなに馬鹿じゃないから大丈夫だよ”
“でも……”
“妹を可愛がるのが兄貴の役目。有希は俺に甘えてりゃ良いの、な?”


いつだって私を大切にしてくれた。
思うようにサッカーができない私の相手をしてくれた。
桜上水で女子サッカー部を作った時、まるで自分のことのように喜んでくれた。
カザや水野たちにもお兄ちゃんは優しかったけど、お兄ちゃんは有希が一番可愛いと言ってくれた。

なのに、今は貴方が居る。
特別な存在を作ろうとしなかったお兄ちゃんが、傍に居ることを許している。

口惜しい、悔しい、悲しい、寂しい。


『……有希、俺には今まで彼女なんて一度も居なかったし、これからも好きな女の子は作らないよ』
「ほんと……?」
『本当だって。今までお兄ちゃんが有希に嘘ついたことあったか?』
「無い」
『だろ?それに有希が俺のお嫁さんになってくれるんじゃなかったのか?』


お兄ちゃんのお嫁さんになる、そう言ったのは確か小学校に上がる前のこと。
あの頃は兄弟愛と恋愛の違いがわかってなかったから、お兄ちゃんと結婚できないと知ったときは大泣きしてしまった。

きっと、忘れられてると思ってた、昔の約束。


『有希が本当に好きな人を見つけて、そいつと結婚するまでは俺も結婚はしないよ』
ってマジでシスコンだな』
『うっせーなー……』
「……お兄ちゃん、私ずっと結婚しない!」
『『はぁっ?!』』
「だって私が結婚しなきゃお兄ちゃんも結婚しないんでしょ?」
『ゆ、有希?とりあえず落ち着け……な……?』
「私、先輩にも負けるつもりはありませんから!」


私は貴方の代わりになんかなれないし、貴方自身になんてもっとなれない。
でも、お兄ちゃんは私をちゃんと見てくれてるって気づいたから。
貴方の代わりを、私に求めるわけがないから。


「ずーっとずっと一緒に居てね、お兄ちゃん!」
『あ、うん……』
「小島さん、ここ廊下だよ?僕たち凄く目立ってるんじゃ……」
「あ、ごめんねカザ♪」
『風祭、小島妹ってあんなキャラだったのか?』
先輩が絡むとどうも……」


彼女とか、お嫁さんにはなれないけど、妹としてならずっと一緒に居られるよね?
昔からずっと大好きなお兄ちゃん。
誰よりも素敵で、世界中で一番かっこよくて。
本当に大好きだよ、お兄ちゃん。


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