*文字サイズの変更にjavascriptを使用
*動作確認IE6,7
Junk
Original
(あ……)
『、どうした?』
『ううん、なんでもない』
は、同性の自分から見ても格好良いと思う。
それは他の奴らも同じで、に憧れる人間は大勢居る。
は、とにかく人に好かれる。
他校の女子からしょっちゅう告白されたりする……というような少女漫画的なものは無いけれど。
けれど試合の度に黄色い声援を受けていたり、差し入れをもらっていたりするのは事実だ。
『それにしても暑いよなー。俺、マジで溶けそう』
『そうだね。でもエースが溶けちゃったら、うちのバスケ部はどうなるのさ?』
バスケや球技だけじゃなくて、スポーツ全般ができて。
頭だって決して悪いわけじゃなくて、どちらと言わなくても頭が良い部類に入る。
いつも爽やかな笑顔で、周りを魅了して。
だったら、きっとカリスマ生徒会長になれただろうに。
『あ、。先月の俺どうだった?』
『凄く調子良かったよ。コンディションも良いし……あ、先月も得点王じゃん』
『マジ?!やったーっ!』
1年の頃からレギュラー入りするほどの実力を持っていた。
ありがちな「先輩からの嫉妬」とかが無いのは、ひとえにの人格の良さだと思う。
「おーい、。マネ独り占めすんなよ〜」
「そーだそーだ、もなんか構わなくても良いぞー」
『部長もお前らもうるせー!に構ってもらえないから口惜しいんでしょー?』
『わ……っ?!』
に抱きしめられて、思わずファイルを落としそうになる。
チームメイトだけじゃなく、他校のデータや対戦成績なんかを入れているから、結構な数が入っているというのに。
うちは男子校だから、マネも当然男子。
教師や養護教諭までもが男子で、全寮制だから更に女子との接点が無くなる環境の中。
『背が小さくて、華奢で、素直で、真面目で、可愛くて綺麗……ってマジ理想の彼女だよな〜!』
『……女の子扱いしないで、っていつも言ってるだろ?』
生徒たちは、例え同じ男でもちやほやされる男子と、ちやほやする男子に分かれるらしい。
……ちなみに、自分は前者の方らしく、不本意ではあるけれどそれなりに快適な学園生活を送っている。
そして、何故かの「彼女」と認識されたりすることさえある。
そのせいなのか、しょっちゅう上・同・下級生問わず、または教師にまで呼び出される始末である。
『それは俺のせいじゃないんだけどな』
いつだったかにそのことで愚痴を言うと、何故かや友人、その他大勢に苦笑されてしまった。
『あ……』
『どうした、?』
『蝉時雨……』
昼頃の蝉の鳴き声は、何故か切なく聞こえるときがある。
それは、ほんの少しの命を削ってまで鳴き続けるという、蝉の健気さに触れてなのだろうか。
それとも、ただ、夏が切ないだけなのか。
炎天下の中、虫取り網や虫かごを持って、一生懸命走り回って、蝉を捕まえて。
捕まえたと思ったら、次の朝には既に鳴かなくなった蝉だけが残っていて。
命の儚さが悲しくて、にすがり付いて泣いたことがある。
バスケ部全体が動きを止めて、やがて蝉時雨とグラウンドの野球部の声だけがする。
の腕の中で、目を瞑って、ただ、静かに。
『』
『ん、…………』
昔はとても仲の良かった幼馴染から、今はただ一人の愛しい人になった。
目を閉じている中、の唇が、自分の唇と重なるのを感じた。
命の長さなんて、未来なんて、人の気持ちなんて、誰にもわからないのに。
来年も、その先も、ずっと。
こうやって、貴方と唇を重ねられたら良いのにと思うのは、愚かな願いなのだろうか。
《戻る