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Junk

FINAL FANTASY Z




繋いだ指先はとても冷たくて、身も心も凍りつきそうで。



「……?」


目覚めると、ベッドはもぬけの殻で、ドアが少し開いていて。
レノは欠伸を1つしたあとベッドから抜け出し、階段を下りていった。


「おはよう。やっと起きたな」
「昨日寝たの夜中の3時だぞ?」
「3時間寝たら充分だろう」
「はいはい、コーヒー貰うぞ、っと……」


ルードが自分の為に淹れたばかりのコーヒーを奪い、一気に飲み干す。
砂糖もミルクも入っていない真っ黒な液体は、レノの頭が覚醒するのを手伝った。


は?」
ならさっき出かけた。アヤメの花束を持ってな」


今日が何の日か、なんて嫌でもわかりきっているけれど。
それでもカレンダーで今日が何日かを確認して、再度レノは納得する。
そして何事も無かったかのように新聞を読み始めた。

ふと窓の外は雨なのを認識し、はっきりと毒づく。
あぁ、今年の今日も雨が降ってやがる。


『なんで毎年雨が降るんだよ……』


浜辺を歩きながら、は一人ごちる。
そんな事を言っても、雨が止むわけなどないのに。

は、雨が好きだと言っていた。
雨は、神が恵みを与えて下さったのだから、と。
そのせいで、はいっそう雨が嫌いになった。
神を憎むようにもなった。

自分からを奪った雨や神を、どうして好いたり敬わなければいけないのだ。
どんなに祈っても叫んでも、を助けてはくれなかったのに。
信じるものは救われるなんて、馬鹿らしいにもほどがある。
そういうわけで、は宗教や信者、特にキリスト教などが大嫌いであった。

アヤメの花言葉は、信じるものの幸福。
の好きだった花で、自分の嫌いな花。
花屋の店員に


「その花お好きなんですね」


と聞かれたとき、は店員と同じ愛想笑いで返した。

岬にある墓地。
その中でも一番海に近い場所に、の墓はある。
白い墓石に刻まれた、の名前。
墓碑銘を指でなぞり、花束をそっと置く。


『ごめんな…………』


守ってやると約束したのに、守られてしまった。
雨の中握り締めた左手は、とても冷えていて。
もう助からないと、その時悟った。


『ごめん……』


許してもらえるわけがないし、許して欲しいとも思わない。
でも、謝ることしかできなくて。


、謝ってばっかじゃもうかばれねーぞ?」
『レノ』
はお前の傍でいつも幸せそうに笑ってた。それで充分じゃねーか」
、あまり自分を責めるな」


いつの間にか後ろに立っていたレノとルードははそれぞれの花束をアヤメの両隣に置く。
レノの持ってきた赤のゼラニウムの花言葉は、君ありて幸福。
ルードの持ってきた白のライラックの花言葉は、青春の歓び。
の恋人で、レノの弟で、ルードにとっても弟のような存在。
それが、だった。


の分までお前が生きれば良いさ」
にそんな顔をさせたくて、はお前を庇ったわけじゃないだろう」


赤い髪に雨の雫を滴らせながら、レノはに笑いかける。
サングラスの奥では、ルードはとても優しい眼差しを向けていた。
3人とも傘を持っているのに差そうとはせず、つま先からてっぺんまでびしょ濡れだった。


……今度巡り合えたら、その時はずっと一緒に居ような……』


雨は止むことを知らない。
まるで、3人の心の中をあらわすかのように。


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