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BLEACH
もう会うことはないだろうけど、それでも今だけは、素直に言えるから。
大好きだよ、と。
「、本当に良いのですか?」
『何がですか?卯ノ花隊長』
そう言って振り返った貴方は、本当に綺麗に笑っていて。
手のひらにある鮮血の赤が、よく映えた。
「私は貴方の意思を尊重しますが、それでも彼だけには伝えるべきでは?」
『良いんです。にばれたら、延命治療させられることは間違いありませんから』
滅多に笑うことのない貴方が、今日はよく笑っている。
そのことが、私をひどく不安にさせた。
「どうして生きようとしないのですか?市丸隊長と約束したのでしょう?」
『市丸隊長との約束より、を解放するほうが大切なんです』
貴方と一緒に庭に出る。
貴方が去年植えていた紫苑の花が、誇らしげに咲いていた。
『覚えてますか?この花、随分昔に隊長に頂いた紫苑の子孫なんですよ』
「そういえば、そうでしたね……」
貴方のことで頭がいっぱいで。
紫苑を貴方に渡したことさえ、忘れてしまった。
『明日、この花を見ることはできるでしょうか。1秒先のことさえ、わからないのに』
「そんなことは、言ってはいけません」
貴方の笑顔は、私の心をざわつかせる。
どうして、そんなに幸せそうに笑っていられるのか。
『紫苑の別称がワスレナグサだから、花言葉も“忘れて”なんだと思ってました』
「でも本当は、私を忘れないで……」
私を忘れないで。
心の片隅にでも良いから、私が居たことを覚えていて。
『でも、には忘れて欲しいんです、俺のこと……。俺は最期までに迷惑しかかけてないから』
「そんなことは……」
そんなことはない、と言えなかった。
言えば貴方の心が更に傷つくだろうから。
『明後日、が帰ってきます。隊長、に伝えてもらえませんか?』
「伝えるなら、自分の口で伝えてあげなさい……っ!」
私の言葉に首を振って、“ありがとう、と伝えてください”と。
貴方はそう言って、微笑んだあと。
『卯ノ花、は?他の奴らに聞いても教えてくれねーんだ』
「帰って来るなり、それですか……」
3ヶ月ぶりの、現世からの帰還。
たった3ヶ月、たった3ヶ月のことだったのに。
『この髪紐キレーだろ?に似合うと思って買ってきたんだ』
「あの子は……は、もう居ません」
私の言葉に驚いたのか、彼の手から髪紐が抜け落ちる。
黒髪に似合いそうな、鮮やかな赤色だった。
『居ませんってなんだよ!に何かあったのか?!』
「一昨日、息を引き取りました」
吐血して、スローモーションのようにゆっくりと倒れていって。
そして、死んだ。
『嘘つくんじゃねェよっ!あいつは俺の帰りを待ってるって言ったんだ!』
「貴方が現世へ行った日、は突然血を吐いて倒れました」
病名は、肺結核。
治そうと思えば、治すことができたのに。
『卯ノ花なら治せただろ?!』
「が望んだのです。このまま。死にたいと……」
“これ以上に迷惑は掛けられない”。
貴方はそう言って、治療を拒んだ。
『嘘だろ?!が俺を置いて行くはずがねェ!』
「あの子は、自分が傍に居たら、貴方が幸せになれないと悩んでいました」
病状を知ったときの第一声は、“やっとを解放できる”。
貴方は、そう幸せそうに言った。
『幸せになれないってなんだよ!』
「あの子は、貴方が同情して自分の傍に居てくれるのだと思っていました」
彼は絶句する。
今までの幸せな思い出が、崩れてゆく。
『そんな……』
「あの子は……、あの子の手首には無数の傷跡がありました」
幾筋かの、赤い傷跡。
刃物で切り裂いてできた傷だった。
『は死にたがってたけど、俺が許さなかった!』
「まだ真新しい傷跡がありました。きっと、止められなかったのでしょう」
彼は誰しもが憧れる存在で。
貴方にはそれが誇りでもあり、重荷でもあったのだろう。
『なんで無理やりにでも止めなかったんだよ?!が死んで悲しくねーのかよ!?』
「確かにが死んだら私たちも悲しむに違いない。けれど」
でも、一度でもいいから貴方の願いを叶えてやりたかった。
最初で最後の、貴方の願いを。
『は、ずっと無理してたのか?不幸だったのか?』
「いいえ、あの子は貴方に感謝していました。そして、自分のことは忘れて、と」
壁にもたれてずるずると座り込む。
彼は、うわ言のように貴方の名を呼んだ。
“俺は、幸せでした。や隊長たちと一緒に過ごせて……”
“俺の名前を呼んでくれて、俺の存在を認めてくれて嬉しかったです”
そう言って永遠の眠りに落ちていく瞬間の、貴方の笑顔を。
私はきっと、いや絶対に忘れることはないだろう。
貴方は今、幸せですか?
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