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Junk
D.Gray-man
『』
『ん?、どうした』
『……なんでもない。さ、仕事の報告行こう』
『あぁ』
そう言いながらもは歩き出そうとはせず、セイの背中をしばらく見つめていた。
まるで、その姿を目に焼き付けるかのように。
「兄貴?!どうしたんだ!」
『う……、ゲホッ』
鉄の味。
目の前が、赤に染まる。
『ユ……ウ……』
「待ってろ、コムイを……」
『誰にも、言わないで』
「え……」
呆然とする弟の腕をつかみ、ははっきりと告げる。
『俺が血を吐いたこと、誰にも言わないで』
酷なことを言った、とは思った。
神田の顔は酷く険しい。
「なんでだ」
神田の声が震えている。
は団服の袖で口に付いた血を拭った。
団服が黒色で良かったと思う。
血が付着しても、あまりわからないものだから。
『同情されたくないんだ、最期まで』
昔、子供を庇って受けた傷。
その古傷が、体を蝕んでいく。
けれど、そのことで周りの目が変わるのが嫌だった。
『ユウ、ごめん。でも、これが最後の願いだから』
は神田の顔を見据えてはっきりと告げた。
神田の泣きそうな顔は、久しぶりだった。
「今日呼んだのは次の任務のことなんだけどね。任務先と内容は……」
『コムイ』
コムイの言葉をが遮る。
そんなことは初めてだったので、は少し驚いた。
そして、次の瞬間耳を疑った。
『俺、もうとは仕事したくない。俺の代わりに誰か別の奴を行かせて』
『……?』
は隣のを見るが、は決して視線を合わそうとはしない。
「わかった。にはラビと組んでもらうよ。、ラビを呼んで来て」
『コムイ、ありがと。じゃ、呼んでくる』
『!』
立ち上がったの腕を咄嗟に掴む。
けれど。
『何?』
今まで見たことの無い、冷たい眼差しと声。
の態度にショックを受けて、は一瞬頭の中が真っ白になった。
『……思えば、あの頃から様子がおかしかったよな、お前』
眠っているようにしか見えない。
しかし、の時間はもう止まってしまっている。
がその漆黒の瞳でを見ることは、もう永遠に無い。
そっと、の頬に触れる。
『お前、同情されるのが嫌だったんだって?』
の想いに、は答えられなかった。
のに対する想いと、のに対する想いは違っていたから。
にそう告げたとき、はわかってた、と笑った。
わかっていても、伝えておきたかったのだ、と。
決して、叶わぬ思いを胸に抱き、笑うことはどんなにか苦しかっただろう。
それでもなおの傍に居続けて、誰よりも多くの時間をと共に過ごした。
『ばかやろー……』
その言葉は、最期まで自分を騙し通そうとしたに。
そして、そんなを傷付け続けた自分自身に。
に拒絶されて、は初めて気づいた。
ずっとが自分の傍に居てくれることが当たり前だと思っていたこと。
そして、どんな形でも良いから、が自分だけのものであることを望んでいたのだと。
と同じように、もを欲していたのだと。
『お前が俺に好きだって言ってくれたとき、俺もって言えば良かったのか?』
にはきっと、体の傷よりも心の傷のほうが痛かったはず。
それは、が一番よくわかっていたはずなのに。
『ごめんな』
に、甘えていた。
の笑顔に、癒されていた。
の言葉に、愛しさを感じていた。
がそのことに気づくには、もう遅すぎた。
『……それでも、お前は生涯ただ独りの相棒なんだ』
嘘でも「愛してる」と言えば、今も隣に居てくれたのだろうか。
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