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テニスの王子様
『……もうこれで終わりか?』
『あぁ。悪かったな、手伝ってもらって』
『友達だろ。水臭いこと言うなよ』
友達。
その言葉に、の胸が痛む。
自分で言っておきながら、とは自嘲した。
『じゃ、俺帰るわ』
「え?もう夜遅いだろ、泊まってけよ」
『バーカ。俺はみたいに気の利かない奴じゃないの』
はの行動が理解できない。
それは、隣に居る跡部も同じようだった。
戸惑っているあたり、の行動の意図が掴めていないらしい。
『じゃ、後はごゆっくり』
『?』
『あんまに無茶させんなよ、景ちゃん。じゃーな』
「え、おい……」
そんな二人をよそに、はさっさと帰っていった。
と跡部の間には、沈黙が流れる。
「……この部屋、懐かしいよな」
『あぁ。景吾に初めて抱かれたのもこの部屋だったな……』
「もう遠い昔のことだな」
『あの時、偶然遊びに来たに見られたんだっけ』
その次の日からはや跡部と目を合わせなくなり、二人を避け始めた。
の方から話し掛けてくれるようになった今でも、はの部屋に来るのを拒む。
引越しの準備をしている間も、の顔からは表情が消えていた。
「があんなに変わってるなんて、正直驚いたぜ」
『侑士が居なかったら一生気づかなかったよな』
忍足は人の扱いが上手い。
すぐにと仲良くなり、たちのほうに半ば無理やりを連れてくるようになった。
さすがのも忍足には勝てなかったらしく、や跡部の傍に居るようになった。
高等部に上がると、は変わっていた。
黒髪は綺麗なブラウンに染まっていて、ピアスを開けていて。
穏やかだった雰囲気は消え、冷たく、そして誰も寄せ付けようとはしなかった。
今は忍足に言われたからなのか、髪も耳も元に戻っている。
『俺らのせいだよな。中等部の時はいつも三人一緒だったし……』
「そーだな……自分独りだけ除け者にされたと思ったんだろーな」
や跡部が覚えている中等部までのは、いつも笑顔だった。
控えめで、穏やかで、周りに気を遣うことができて。
けれどもしなやかで、決めたことは最後までやり通す。
そんな性格と端正な容姿から、の周りには常に人が集まっていた。
そのは、もうどこにも居ないのだろうか。
「?大丈夫か?」
『ゆうし……、っく』
の頬を零れ落ちていく涙。
忍足はその涙を拭うと、の頭を撫でた。
「ごめんな、の部屋に一人で行かせてもて……辛かったやろ?」
は力なく首を横に振るが、忍足にはすぐに見破られる。
でなければ、泣く理由などどこにもない。
「……今でも、跡部たちと居るんは辛いか?」
『辛い、よ……好き、だ、から……』
も、跡部も。
にとっては大好きで、大切だった。
跡部に抱かれているを見たとき、三人の関係は崩れた。
跡部とは幸せそうで、自分なんか居なくても幸せそうで。
は、自分の必要性を、他人を信じられなくなった。
携帯から陽気な着信音が流れる。
から掛かってきたときの音楽だった。
とても電話に出られる状態ではないの代わりに、忍足が出る。
「もしもし、やんなー?」
『侑士?』
「はちょっと今出られへんねん」
『だからってなんで侑士が出るんだよ?』
「に言わなアカンの?自分ら付き合う時も、別れた時も、何も言うてくれんかったやん」
だから、は未だに苦しんでいるのだ。
と跡部が好き合っているのだと。
自分だけには何も言ってくれずにいるのだと勘違いして。
足を曲げて、膝の間に顔をうずめて泣くを見て忍足は舌打ちする。
冷たい声になっているのはわかるけれども、苛立ちを抑えられない。
「大体に何の用なん?今まで散々を除け者にしとったくせに」
『侑士……?』
「もういい加減にしーや。傷つけるんは、俺が許さへん」
忍足にとって、は特別な存在である。
忍足が初めてを見たとき、はとても弱っていた。
いつ壊れてもおかしくないくらい、ボロボロだった。
二度とそんな風になって欲しくない、忍足はそう思った。
庇護しなければいけない、と自分に誓ったのだ。
『侑士、もう良いよ……俺が話す』
「大丈夫か?」
『ん……?』
忍足から携帯を受け取り、は話し出す。
『っく、、ごめん、俺にもう構わないで……』
『どういうことだよ?なんで泣いてんだ?』
『ごめんなさい……』
それだけ言うのが精一杯で、は電話を切った。
『やっぱり……もう昔みたいには戻れないのかなぁ?』
「無理して戻ろうとせんでえぇやん。俺は、いつでもの味方やで」
一度壊れてしまったものは、元に戻らない。
新しく作り上げようとする勇気さえない。
今のには、そんなことができようも無かった。
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