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Junk

※Normal Loveです、ご注意下さい※

「ねぇ、
「何、?」
「揚貴妃ってなー…幸せだったのかな?」

俺の隣で寝ころび、『長恨歌』を読みながら突拍子もないことを聞いてくる
…女子高生にしては渋い嗜好の持ち主だと俺は思う。

「失礼なーあたしはそんなに年喰ってませんが」
「あ、俺口に出してた?」
「…わざとでしょ」
「さぁな」

半目で俺をにらみ、ため息をつくはとても美人である。
ただ、キレイすぎて人形のようで冷たい感じがするのもまた事実ではあるが。

って笑えば可愛いのに」

「なんで笑いたくもないのに笑う必要があるの?そんな変なことほざく暇があるんなら、散乱する差し入れの山を処理したらどうですか?」
「もてる男は辛いんだって」
「あんたの親衛隊とか言う奴らの気が知れない」

”という人形は滅多に笑うことをしない。
『淡泊』とか『クール』などというように他人様からは認識されていて、その淡泊さが意外と好評だったりする。

も顔だけは良いのに…」
「一応頭も良い方だと思うけど?」
「じゃあ上辺だけは良いことに訂正しておくわ」

は無表情で俺は笑顔を貼り付けたまま会話を続ける。
俺、“ ”もどちらかというと目立つ部類でありそして不真面目な人間である。
だからとも変に波長が合うのだろうけれど。

「で、はどう思う?」
「揚貴妃が幸せかどうかだったっけ?」
「そう」

世界三大美女の一人で、玄宗皇帝に愛され国を滅ぼした傾国の美女。

「確か、玄宗皇帝に身代わりにされたんだろ?」
「っていうか…助けてもらえずに、見殺しにされた」
「うわー、化けて出てきそうな感じ?」
「実際そんな怪奇現象の記録も残されているそうな」
「人間が一番怖いって本当なんだなー…」

だが玄宗皇帝の気持ちもわかる。
所詮人間というものは自分が一番可愛いに決まっているのだ。

「『長恨歌』って、確か玄宗皇帝が揚貴妃を偲んで詠んだ歌だよな?」
「Yes」

やけにキレイな発音で返された。
そういえばこいつは帰国子女だったような気がしないでもない。

「玄宗皇帝ってね、善政を施した賢帝だったらしいんだけど、揚貴妃に溺れてからはほとんど政務をしなかったみたい」
「真面目な人間ほど、一度ダメになると目も当てられなくなるってよく言ったもんだ」

玄宗皇帝は国を担うという重圧に耐えきれず、揚貴妃の所に逃げたのかも知れない。

「俺が揚貴妃なら、死ぬときは幸せじゃなかっただろうな。玄宗皇帝に“どうして助けてくれないの”って言って死んでいくと思う」
「あたしは幸せだと思う。自分が死んだ後も想われるのって究極の愛じゃない?」

がキレイに笑う。
その笑みもまたキレイすぎて、少し鳥肌が立った。

は死んでも愛されたいのか?」
「そうね…どうせなら束縛するくらい愛されたいかな?」
「…意外」
「よく言われる」

束縛とかむしろ嫌いそうなのに、と俺は素直に驚いた。

「なんでだろう、尽くされるのが好きってわけじゃないんだけど。自分が誰かに振り回されるのが我慢できないのかも」
「そういう所はらしいな」
「それはどう取れば良いの?」
「誉めてるんだよ」
「なら良いわ」

長恨歌を読みながらは言った。
校庭からは元気の良い声が聞こえてくる。
今は6時限目。
昼休みにここで飯を食べてからそのまま屋上に居るわけだから、現在サボり2時限目。

「…7時限目、どうする?」
「科目なんだっけ?」
「道徳」
「あ、あたしパス」
「言うと思った」
「なんか、あぁいうのって偽善にしか思えなくて。あたしって、かなり心が荒んでるのかもね…」

は道徳とかそういう類のものが苦手というか嫌いらしい。

「鈴村さんとかが“人の気持ちになって…”とか言うじゃない?あれ聞くとシラケるっていうか、“どうせ口先だけのものだろ”って思うの」

“〜だと思います”だけで差別が溢れる世の中が変わるわけじゃない。
まずは一人ひとりが意識し、自覚することが大切だと言う人間も居るけれど。
結果から見れば、行動を起こさないのならば無関心である人間と同じである。

「ガンジーとかキング牧師とか、マザーテレサのことはすごいと思う。でもね、一週間に一度、たった50分間プリントを読んで読書感想文みたいな漠然とした意見を言ってたって、意味が無い気がする」

綺麗な言葉を押し並べても、所詮机上の空論でしょう。とは言った。

「…かなり話が逸れたよな?」
「確かに…揚貴妃の話がここまでずれるとは思わなかった」
「でもさ、揚貴妃が幸せだったかどうかは揚貴妃本人にしかわからないだろ?」
「そうね。赤の他人があれこれ言うことじゃないかもしれない」

揚貴妃の幸せについての話と、差別のある世の中に対しての話は全く正反対の位置にあるようで実は似通ったところもある気がする。
所詮その人になんて成り得るわけがないのに、自分だったらああだこうだと言って結局はただの自己満足に浸って終わるだけ。
…俺も結構歪んだ人間である。

「…そろそろ帰るか」
「後はSHRだけよね?」
「あぁ」

そんな下らない会話で、今日も一日は過ぎていく。


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