ドリーム小説

神は言われた。
「天の大空に光る物があって、昼と夜を分け、季節のしるし、日や年のしるしとなれ。
天の大空に光る物があって、地を照らせ。」
そのようになった。
神は二つの大きな光る物と星を造り、大きな方に昼を治めさせ、小さな方に夜を治めさせられた。
神はそれらを天の大空に置いて、地を照らさせ、昼と夜を治めさせ、光と闇を分けさせられた。
神はこれを見て、良しとされた。
夕べがあり、朝があった。
第四の日である。
(創世記1:14-19)





「ニルヴァーナとインドラ?」
「ああ。この前見た銀髪男は、ニルヴァーナの総長で斎 空夜。スカイイーターの異名を持ってる」
「斎さんかー……綺麗な人だったな」


月明かりに照らされた、人間とは思えないほどに美しい青年。
男に"美しい"を使って良いものかは知らないが、それがの中では似つかわしく思える。
今まで見てきた人間の中で、一番の人。
何が一番なのかは分からないけれど。

斎 空夜という名前も、彼によく似合っていた。


「で、インドラって?それもA.Tのチーム?」
「Aランクの大規模なチームだ」
「涼のチームより強い?」


甲斐 涼と言えばストームライダーの間ではかなり有名で、彼が率いていたチームはAランクだった。
都築もまたAランクチームの総長だったが、二人とも突然チームを潰してしまった。

その原因が自分にあることをは知っている。
けれど、涼と都築は決してそれを言わせない。

の言葉を避けるように、涼は医学書を開いた。


「インドラの秋野 リョウっていえば有名だぞ。斎と違って顔が売れてるからな」
「……涼、その二人となんか関係でもあんの?」
「チームのレギュラーメンバーが大学の知り合いなんだ」
「そうなんだ。でも、なんでその"秋野さん"が出てくるわけ?」
「色々あるが、……が惹かれそうだからな」
「やだなー涼、俺そんなに惚れっぽくないって」


は笑って涼に背を向ける。
心が落ち着かない。
波立つ心を、彼に気取られたくはなかった。

人間は見ていて楽しいから好きだ。
けれど傍に置きたくはない。
彼らはただ、動く彫刻像であれば良い。
いつか失うことを恐れてしまうから、欲したくはない。

俺の無関心の世界を、人形の心を、どうか壊さないで。
俺はただ自分を消してしまいたいだけなのに。


「俺、ちょっと走ってくる。涼は都築が来るまで待ってて」
「わかってる」


涼が という人間を知っているからこそ、今は傍に居たくない。










スパイクで大地を蹴りつけるのとA.Tでアスファルトを踏みしめるのとでは全く違う。
けれど、頬を撫でる風はいつも心地良い。

ハードルを跳んでいるとき、いっそ鳥になってしまいたいとは思う。
風を受けて、己の翼で、天高く舞う。
そんなことをしたらハードルは跳べないわけだけれど。





走るだけ走って頭の芯まで冷えたところで、は闇夜に光る金糸を見つけた。
真夜中に映える、灼熱の太陽。
なぜか空夜の月の銀髪と対のように考えてしまった。

何人かのストームライダーに囲まれて、ひときわ光を放っている青年から目が離せない。


「インドラ、秋野 リョウ」


の直感が、彼であると告げた。

空夜だけが一番の世界が、音を立てて崩れていく。

彼は確かに目立つ。

こんなにも鮮やかな人を、どうして今まで知らなかったのだろう。


「……人生で二度目の一目惚れしちゃったなぁ」


心臓がオーバーワークを訴えて、ひどく苦しいのに嬉しい。
背筋を這い上がってくるこの感覚をは知らない。

涼の言ったとおり、どうしようもなくリョウに惹かれている。


「秋野さんと斎さん、太陽と月……決して手が届かない存在」
「だったら、さんは星だよね」
「昴宿。いきなり背後から抱き着いちゃダメだろー?」
「どうして?」
「……男は狼だからだよ」
さんは狼じゃないもん。僕、信じてるもん」


首にかじりついてくる昴宿の頭を撫でる。
無邪気に慕ってくれるのは嬉しいが、昴宿にはもっと自覚を持たせなければいけない。
たとえ本人は意識してなかろうとも、昴宿は美しい少女であるという事を。

出会った頃よりも確実に女らしい体つきになった昴宿に、は嬉しいやら切ないやらを感じる。
妹を持つ兄は、誰しもこんな気分になるのだろうかと思った。


「で、俺が星ってどういうこと?」
さんはいつも輝いてるの。星もそうでしょ?」
「まぁ昼間は気付かないけど、いつも輝いてるな」
さんもそうだよ。僕を照らし続けてくれて、僕を導いてくれるの」


昴宿の腕に力がこもる。


「声を忘れてた僕を助けてくれてありがとう、さん」
「俺は何もしてないよ」
「……そうだね。さんは何もしてない、それで良いんだよね」


しばらくして、昴宿は離れていく。
が後ろを振り返ると、昴宿は空を見上げていた。


「星がキレイだね」
「明日はよく晴れるだろうなー。これだけ星が見えるのも珍しい」
「僕が貴方に救われた日も、こんな星空が見えたよ」
「……そうだな」


太陽は昼を司り、月は夜を支配する。
星は微小ながらも確かに輝き続けていて、たちはそれを見ていた。