ドリーム小説

大人組がまだ来ない。
カハデムジカ最年少の杳と、その次に若い昴宿は2人きりで暇を持て余して“遊んで”いた。

さっきから一方的に攻撃してしまっているが、悪いのは彼らであって自分たちではないと杳は思う。
何も知らずに入ってきたのだとしても、こちらから見れば立派な侵入者だ。

懺悔する猶予すら与えずに、制裁の鉄拳を。
聖域を冒す者には、少しの容赦だってしてやる余地はない。

それでも退屈の鬱屈は振り払えず、杳はふと気になったことを口にした。


「そーいや、と涼ってどうやって出会ったんだ?」
「えっと……さんの部活に、OBの涼くんが指導しに来たらしいよ」
「あー、なるほどな」


杳の疑問が解ける。

なにか共通点でもない限り、年齢差のある2人が出会うことは珍しい。
言われてみると、自分の兄も同じ学校を卒業していた。


「僕がさんと出会えたのも、涼くんのおかげ」


昴宿が微笑む。
を語るときの笑顔は、見慣れた杳は別にして昴宿の知り合いなら驚くだろう。
他人との接触を好まない、大人びた少女。
顔が整っているだけに、表情がないのに迫力がある。
東雲中学でも、特異な存在として目立っていた。


「涼の親父さんの病院に入院してたんだよな?」
「そう。涼くんだけが、僕の遊び相手になってくれたの」


昴宿の生家は地位が高く、病院でもそれなりの待遇を受けていた。
それでも昴宿自身はまだ子どもであり、個室から綺麗な景色を見ることにも飽きてくる。
だが大学受験を控えた涼や、看護師も多忙なのは承知していた。


「何回も同じ本を読んでた僕を見て、涼くんがさんを連れてきてくれたの」


優しく細められた深緑の瞳。
まるで絵本の中から抜け出たような、王子様が現れた。


は毎日来てくれたのか?」
「ううん。あの頃から陸上部のエースだったもん」
「じゃあ、なんで涼よりに懐いてんだよ?」
「……さんと涼くんは違うの」


は本当に綺麗で、温かい人だった。
寂しさに負けそうなとき、自分の運命を恨んだとき。
いつもタイミングよく顔を出しては、昴宿が欲しい言葉をくれた。
孤独から救ってくれて、笑顔を思い出させてくれた人。

でも涼は違う。
傍にいるのが当たり前で、家族よりも近しい大切な存在。
の背中を追いかける昴宿を、そっと見守ってくれている。


「でもね、2人とも男の人でしょ。僕だけ女だから……」
「だから自分のこと“僕”って言うようになったのか?」
「“俺”はダメだって、涼くんが許してくれないんだもん」
「“僕”も、涼にしてはかなりの譲歩だったと思うぜ……」


昴宿の保護者を自認している涼としては、その養育に責任を感じているのだろう。


「でも、昴宿が僕って言わなくなったらなったでショック受けそーだな、アイツら」
「なんで?」
「……なんとなくだよ」


今さら過ぎることを聞いて、少しは時間も潰せた。
地面に転がるライダーたちは、もう解放してやってもいいだろう。


「あー、たち早くこねーかな」


トドメに右足を蹴り上げる。
雑魚で“遊ぶ”のにも、もう飽きた。