ドリーム小説
嫌、みんな嫌い。
「あ、立花菜子ちゃんだろ?」
大学生くらいの男数人に囲まれる。
雑誌の読者モデルを嫌々引き受けたら、知名度は一気に上がってしまった。
数え切れないほどのナンパ、セクハラ。
それ以来、街を歩くのも交通機関を使うのも嫌になった。
気持ち悪い。男なんてみんな死んでしまえ!
心の中でそう叫んでも、誰も助けてはくれない。
助けて!私に触らないで!
『お兄さん方、3対1のナンパはちょーっと強引なんじゃありません?』
よく響く、少し笑いの混じった声。
その声が聞こえた瞬間、目の前にいた男たちが崩れ落ちる。
「陸上のスパイクって武器になるんだよ、知ってた?」
「あ、いえ……」
艶のある、けれど下心のない笑顔と声。
深い翠を細める彼は、共演したどのモデルよりも端正な容姿をしていた。
肌はモンゴロイド特有の象牙よりも、白磁のようなそれに近い。
「んじゃ、コイツらが起きる前に逃げようか」
「え?」
よく見れば彼の着ている制服は、全国でも有名な進学校であり、陸上部も全国区の高校のものだった。
そこの生徒で、しかも陸上部。
かなりのエリートであるということだ。
けれど足下はローファーではなく。
「A・Tシューズ?」
「そう。持ってる?」
「ううん、持ってない」
「じゃあ俺に掴まって?飛ぶから」
幼稚舎の頃から女子校育ちで、家族と教師以外の男なんて得体が知れなくて怖い。
そう思っていたはずなのに、その手にしがみついたのは何故だろう。
きっと、男とか女とかの垣根を越えて、彼を純粋にキレイだと思ったから。
細くしなやかな指に触れるのは、恐怖とは違う意味で緊張した。
ギアがうなり、風を呼ぶ。
空気抵抗を少なくするために状態を倒すのは、陸上の癖なのだろうか。
「俺スタート飛ばすからちゃんと掴まっててくれな」
「うん……きゃぁっ!」
思わず身体が仰け反り、腰が引けた。
周りの風景が流れて捉えきれない。
「怖いなら、空を見上げてれば大丈夫だから」
優しい声に導かれ、顔を上げる。
そこには、ただ1つの月と優しい笑顔があった。
それが切欠でA・Tを始めるようになって、シムカや他の遊曲もライダーであることを知って。
世界は少し、開けた。
「君ら2人?俺らとカラオケ行かない?」
鼻の下を伸ばした男が2人。
シムカと顔を見合わせてしまう。
「悪いけど、」
口を開いたのは私たちじゃない。
「菜子たちにナンパすんなら俺ら以上の顔になってからにしろよ?」
驚いて振り返る男の頬を指で指しつつ、さんは笑った。
「!久しぶり〜!」
「シムカは相変わらず桜色の髪してんのな」
「何、悪い?あ、都築さんキヨさん涼さん昴宿っち杳クン久しぶりだね〜」
「凄いな、一息で言い切ったよ」
「カハデムジカ勢揃いだね」
「今日はチームユニフォームの生地選びなのよ。ワンシーズンごとに変えるの」
「お前はそれが半分生き甲斐になってるからな。俺たち男はその荷物持ちだぜ」
煌びやかな面々に尻込みしたのか、男達は消えていた。
太陽の下、カハデムジカのメンバーは視線を浴びすぎている。
皆それぞれにタイプの違う美形だからだろう。
ホスト軍団ではないのかとスピット・ファイアにからかわれても無理はない。
「じゃ、行こうぜ。シムカも来るだろ?」
「うん!」
菜子の隣にシムカが並び、さんの両隣には昴宿と杳。
「仲良いね、ホント」
「だね」
「以上の顔なんて居ないでしょ?」
「さんは秋野さんと斎さんだって言うよ、きっとね」
太陽と月に焦がれる星、それが自分たちの総長であり大切な人。
そんな貴方に出会えて良かった。