ドリーム小説
「いらっしゃい!」
『こんにちは、信さん』
「なんだ、かよ」
『なんだ、とか酷くない?俺客だよ?』
カウンターに両肘を付いては信長と向き合う。
今日は珍しく、古着屋に客が少ない。
普段ならたくさんの人間が居るというのに。
『なんかオススメ無い?』
「……せめてインナーとかパンツとかアクセとかのジャンルを限定しやがれ」
のリクエストは余りにも漠然とし過ぎている。
信長がそう言うと、はふわりと笑った。
天使のように無垢で、小悪魔のような艶やかさ。
成長期の少年特有の、アンバランスな魔力。
『だって信さんが全身コーデしてくれんの好きだもん。真剣で格好いいし』
「お前はタラシか!」
『……信さんとこの総長でしょ、タラシなのは。ねぇ、愛さん』
「あら気づいてたのね、」
「、あたしのこと忘れてない?」
『キヨは言わなくても良いかと思ってさ。だって俺たち深い仲じゃん?』
「何が深い仲だよ」
『わかんない。俺バカだし』
全国共通模試で上位10位内に入る人間がバカだというのなら、日本の学歴社会はどうなるのだ。
ふざけた喋り方をしても育ちの良さと知性、教養の深さ、頭の回転の速さはわかるものである。
キヨと愛姫、二人の美女は揃ってため息を吐いた。
「そういやアンタ、ウチにはあんまり近寄らないのね」
『ん?あー、だって秋野さんに近寄ると、なんか”話しただけで妊娠する”ってのを実感するんだよなぁ』
「エロいってことか?」
『まぁ、そうなるけど。マトモにあのフェロモン受けたら死にそう……ってか近付くのが畏れ多いとうか』
「は変なところで照れ屋なのよね。戌井や愛姫とは話せるのに」
「そーそー、俺とは話してくんないの?」
四人以外の声がして、一斉に後ろを振り向く。
店の入り口にもたれかかり、陽光を浴びて輝く金の髪を揺らして笑っているのは。
『あ、秋野さ……っ?!』
「残念でした。逃がしてやんねーよ?」
「秋野、ウチのは猫じゃないんだけど。首根っこ掴むのは止めなさい」
「こうでもしねーと逃げるだろ?な、?」
『わかってるなら逃がしてください!』
既には耳まで赤くなっている。
それを見た信長は、の奴苦労するなぁ……と哀れんだ。
一度リョウに気に入られてしまったら、決して逃げられはしないだろう。
少し(?)サドっ気のあるリョウにとって、は貴重な仔猫なのだから。
を手懐けるのが、最近のリョウの楽しみであるとか無いとか。
「……戌井、の服、あたしが代金払っておくから」
「あ、あぁ」
キヨは財布から紙幣を出して紙袋を受け取り、自分のチームの総長を見やる。
「秋野にあんまり苛めないでやって、って言っといて。を泣かしたら許さないわよ、ともね」
「本人に言えば良いじゃない」
「愛姫、今の秋野にあたしが言っても聞こえないわよ」
「のこと、見捨てるの?」
「だって、今を逃がしたら秋野に恨まれそうだもの。のためにもコレが良いのよ」
を”可愛がる”リョウは、とても生き生きしているように見えた。