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Junk

Original

はどうする?今度の総合』
『……さぁねぇ、まだ一ヶ月もあるし、テーマも決めてない』


俺の方を見ずには答えた。どうやら次の授業の英単語テストを見てるらしい。
テストは英文が10あるうちの5題が出るけど、前日に10題全部覚えるよりもその日の休み時間に5題だけ覚えるのがらしくて、だけどいつも合格点は取っている。といいといい、要領良い奴ばっかなんだよな。

「総合」「テーマ」というのは3年生が総合の時間を使って、テーマから発表までをすべて自分たちで計画して実行する、まぁ大学でいうゼミや論文みたいな感じのやつだ。
独りで制作に取り掛かるのもありだし、何人かでグループを作って一緒に研究するのもあり。資料も図書室とかの文献、インターネット、工場などの現場へ行って取材しても良いことになっている。
まるまる1学期分の総合の授業を使ってやるから、結構本格的で深いところまで掘り下げたものが作られる。
中には大学や企業、なにかの大会に出品されて海外にまでいってしまったものもあるらしい。


はどうするんだよ?はもう決めたかなー……」
『なに、から聞いてねーの?』
「なんか、に避けられてるっぽい気がしてさ」


はアイスホッケー部の2大看板というかゴールデンコンビで、大抵いつも一緒に騒いでた。
だけどに彼女ができてから少しずつ距離が出来ていって、今の状態になっている。は前よりも大人びた笑みで自分の感情を殺していて、でもそれがなんか本当のっぽい感じがした。
最初はに彼女が出来たから拗ねてんじゃねーのってみんな言ってたけど、彼女と別れてからもはずっと変わらない。凄く薄いけれど、でも確かに存在するペールで、は他人に触れられないようにしている。

、今の方がずっと肩の力抜けてる気がする。そうが呟いたのを聞いて、驚いてたっけ。


『ねぇ、はどうするの?』
「さー、どうしよっかな。は?と組んだら良いんじゃねーの?」
『は?なんで』
「二人のタッグなら良いもんができるんじゃね?お前らの小論文とかレポートってすげーもん」
「……美男美女だな。良いのか?」
『何が?あぁ、は大丈夫だよ』
「なんで?」


に取られるんじゃないかって心配してくれてるらしいけど、は他の人が好きなヤツを奪ったりはしないと思う。というか、は人嫌いな気がするし。
俺がそう言ったら、は少し眉根を寄せて怒ったような顔をした。俺の方がのことをわかってて悔しいとでも思ったのか。
同族意識じゃないけど、似たような人間ってなんとなく解ってしまうものなんだと思う。だけど、お互いに憐れみなんて求めたくないからそれ以上知ろうとはしなくて、でも納得してしまったりして。
は水と油で、でもが水の振りをしてたから今までずっと一緒に居られた。けれど、今まで頑張って演じてきた自分に限界を感じたんじゃないんだろうか。
だからから離れたんだろうけど、が嫌いなのはじゃなくて自分なんだ。それには気づけなくて、も気づいてほしいとは思ってないはず。

まぁ、が隣の席同士で楽しそうだなーって思ってるのがだけじゃないのは確かだけど。も観察しがいがあるし。
高校に入ってに会ってからずっと、俺は観察に余念が無い。
顔が綺麗だからとか、スポーツも勉強もできるからとか、クールを通り越してドライだからとか理由は色々とあるけど、一言で済ますなら「は異質だから」だと思う。
まぁそんなこと言ってもクラスの奴らにはわかんないだろうとは思うけどさ。ならわかってくれそうだけど。

は似てる気がする。上手くはいえないけど、何かがすごく深くて大きい。
哲学とか、精神論とか観念とか。宗教的なものも秘めている気がする。
それでも二人ともただの高校生なんだけど。


「なぁ、俺ととお前ととでグループ組まねぇ?」
は良いけど、もなわけ?』
、そんな嫌そうな顔されたら俺傷つくんですけど」
「しょがねーよ、お前バカだし」


見た目には何も変わってない。も普通に会話をしている。
でも、ここにいる俺たちだけが、何か変わったのを知っていた。



『何?』
『永遠のものって、が信じられるものってないのかな』
『……さぁ。でもさ、俺とは一生変わらないと思う』
『そうだね。なんか、いつまでも一番近い場所に居て、ずっと同じところを見てる気がする』


恋とか愛とか、甘ったるい名前なんて要らない。きっと互いに生まれもった欠陥部分を補うために俺たちは出会ったんだと思う。
もし手が自分と誰かとを繋ぐためにあるんだとしたら、俺たちは片手を世界に、もう片手をお互いのために差し出していて。
は位相の違う世界に居て、からはの背中が見えているけどからはの姿が見えない、そんな、マジックミラーのような関係なんだろう。

因果関係とか運命というのは不思議だ。信じてないと言いながらも、心の中ではどこか信憑性を持っている。


「……なぁ、お前ら二人の世界に入ってないでこっち戻って来いよ」
「怪しい怪しいとは思ってたけどさ、そんな愛の告白めいた言葉真面目に語り合うなって」


に言われて、俺とは遠いところに飛んでいた意識をすぐ目の前まで戻した。やっぱり見た目にはも変わっていない。


「二人ってマジで似たもん同士だな。なんていうか、出会うべくして出会った、みたいなカンジ」
「空気とかが似てるんだろ。もしくはどっちかが鍵穴でもう片方が鍵……かな」
「じゃあ俺とお前は?」
「運命の悪戯が引き寄せてきた偶然の連続」
「それは必然だろ?俺はそう思う」
「……が言うなら、そうかもしれねーな」


今は遠く離れた。でも、だけに見せる笑顔は本物だと俺は思う。
いや、きっとそうだと信じていたいんだ。俺もも、自身も。

俺たち四人がこんな会話をしている今も、教室の中は普段どおり生気と若さと賑やかさに溢れている。
俺たちだけが、今じゃなくて別のところに居る気がしてきた。

今世界で誰かが死んでいても、俺たちが急に消えたとしても、世界全体はきっと変わらない。
誰かを失った痛みも、掴んだばかりの幸せさえも心はすぐに消してしまう。
けれど、それぞれの人に影も形も無い過去と未来があって、逃げようの無い現実の中で生きていて。

その中でに出会えたことを、俺は神に感謝したいと思った。
そして、がまた背中を預けられるようになることを祈りたかった。





(「変わらぬものは。」「どこまでも痛くて、暗い。」の続編となっております)


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