BLEACH
轍
だから、好きなんです。
『、お茶入ったよ』
『おー、もうそんな時間か?』
他の隊舎とは少し離れた場所にある零番隊舎。
零番隊長のは思いっきり背伸びをして肩を回した。
普段は戦闘要員として働いているは、滅多に事務職をしない。
しかし今日は一件も零番隊に虚退治が回ってこないので、久しぶりに書類に目を通すことになった。
『疲れた?』
『めちゃくちゃ疲れた……』
「でも様は、様の3倍くらいはしてるんですよ?いつも」
雪姫の言葉にはぐ、と言葉が詰まる。
の机を見やれば、3倍どころか5倍くらいの高さの書類の山があった。
の敏腕ぶりはが一番知っていたが、改めてその凄さを痛感した。
『……』
『何?』
後ろからを抱きしめる。
が人前でこんなことをするのは珍しい。
なので少々驚きつつも、されるがままになっていた。
『いつも仕事押し付けてごめん、な』
伏せられた紅の瞳。
いつもは輝いている焔の瞳が、少し曇っていた。
『、何か勘違いしてない?』
カッパーブラウンの髪をかきあげ、の顔を覗き込む。
の氷の瞳は焔の瞳をしっかりと捉えた。
桜色の唇は、ゆっくりと言葉を選んで紡ぎだす。
『俺は、仕事を押し付けられてなんかないよ。謝られる理由も無い』
優しい口調でも、毅然とした態度では話す。
は、の芯の強いところも好きだった。
『がしっかりしてくれなきゃ、俺たち困るんだから』
「様の言うとおりですわ。様あっての零番隊ですもの」
「デスクワークは俺らの仕事。さんは戦いに専念せな」
の言葉に蓮、隼人が続ける。
「むしろキリトたちに事務させると危険ね」
「雪姫……それ酷すぎ」
「(人には得手不得手がありますもの)」
「〜っ、斎ぃ〜!!」
雪姫の言葉にへこむキリト。
斎はそんなキリトを励まして、感極まったキリトに抱きつかれる。
はそれを見て微笑した。
「お前ら仕事中にイチャつくなよ」
『あ、颯』
右肩に千秋、左腕に千春を抱えて颯が入ってきた。
十一番隊においては席次無しの颯だが、元は雪姫、キリトと共に零番隊三席であった。
零番隊で三席ならば、他の隊では副隊長かそれ以上に相当するが、颯は席次を持つつもりは無いらしい。
テクニックの雪姫、スピードのキリト、パワーの颯。
三者三様の三人は零番隊の中堅であった。
『颯はどうしたの?実家に帰ってきたわけ?』
「実家ってなぁ……」
が冗談めかして笑い、颯は呆れる。
普段は大人びていて(実際大人だが)冷静な。
しかし、と居るときはどうしても若返って(実際に若いが)見える。
そうなると思わず気恥ずかしくなってしまうのはどうしてだろうか。
(……大体男同士とか、そんなことに違和感覚えねぇのが不思議なんだよな)
は男女の性別関係無しに美人である。
それは、身内の贔屓目を差し引いても確かだし、そう思うのは颯だけではない。
そして、も女顔ではないが美人であり、に引けを取らない。
どちらかというと女性的な美人のと、男性的な美人の。
一人でも充分に絵になるが、二人だとさらに絵になる。
『……颯?どうしたの、熱でもあるの?』
「、お前俺が静かだと病気だと思ってんだろ」
『そんなことないよ』
ひんやりとした手が体温の高い颯には気持ち良い。
もよく同じことをにされていたのを思い出す。
「「ちゃん遊んで〜っ!!」」
「ぐえっ?!」
『ちょ、颯?!千秋、千春……颯に謝りなさい』
「「ごめんなさーい……」」
颯を踏み台にしてに飛びついた千秋と千春。
それをはなんなくキャッチしたが、厳しい顔をして二人を叱る。
が怒るのは珍しいので、双子はシュンとしながら颯に謝った。
『颯、大丈夫かよ?』
「一応は、な……」
が苦笑しながら颯の腕を掴み、起こす。
向こうではとキリトが千秋と千春をあやしていた。
『姉の子供をあやす弟……って感じしねぇ?』
「が姉で、キリトが弟か?」
ならは姉の旦那か、と颯が呟くとはそうだな、と返す。
その表情がとても幸せそうで、颯はなぜか溜め息を吐いた。
「なんでなんだよ?」
『は?』
「だったら選り取りみどりじゃねぇか。以上に美人なヤツは居ねぇけどさ」
『あぁ、そういうことかよ……。お前唐突過ぎんだよ』
は呆れるが、すぐに真剣な顔をした。
『は俺の恩人なんだ。が居なかったら今の俺は居ない』
愛しそうにを見つめ、は話す。
『あいつの全てを愛してるんだよ、俺は』
「お前、恥ずかしげも無くよくそんなこと言えんな……」
聞いている颯の方が恥ずかしくなってきた。
しかし、の方は全くそんなことはないらしい。
『颯も雪姫に愛してるくらい言ってやれば良いんじゃねぇ?』
「はっ?!ちょ、おま、な、いっ」
『ちょっと、お前、何、言ってんだ、か?ちゃんと日本語喋れよ』
「なんでが知ってんだよ?!」
『から無理やり聞き出した』
無理やり、というのは拷問などの痛々しいものではない。
きっと……と、颯はそこで考えるのを止めた。
あまり考えない方が良いのだと、賢明な判断を下したのだ。
『あんまりボヤっとしてると誰かに取られるぞ?雪姫だって美人なんだし』
雪姫、キリト、隼人、蓮、斎、千秋、千春。
・・颯を含め零番隊の死神は、基本的に器量良しばかりなのだ。
『あ、知ってたか?雪姫の初恋の人って……』
そこで言葉を切り、ニヤリと意地悪く笑ってみせる。
丁度その時、が雪姫の頭を撫でていた。
雪姫は頬を染めて、に笑いかけていた。
『……なんだってさ。颯も大変だよなぁ』
にはなかなか勝てそうにもないぜ、と言い残してたちのほうへ行く。
残された颯は、ただ呆然とするばかりであった。
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