BLEACH


「なぁ、雪姫の初恋の人って誰?」
様」

キリトに聞かれたからそう答えたら、傍で桃と乱菊さんが飲んでいたお茶を吹き出した。



『ねぇ、君の名前は?』
「名前は…捨てた」
『じゃあ名前無いのか?…相楽雪姫はどう?相に楽で“さがら”、雪に姫で“ゆき”』
「相楽、雪姫…?」

“さがら”は普通、相楽じゃなく相良と書くし、雪姫は当て字じゃないのか。
そう思って聞くと彼はこう答えた。

『相楽は“相”手を“楽”しませることができるように、雪姫は…君には雪が似合うし、姫ってイメージがあったから』



様が、あたしを見つけてくれた。
様が、あたしを変えてくれた。
あの時様が居なかったら、相楽雪姫は、今ここに居ない。



流魂街に住んでいたあたしには家族も無く。
やちるほどじゃないけれど、血の朱がとても鮮明に記憶に残っている。
死覇装なんて着てなくて、流魂街の奴らにも威張る事なんてなくて。
目の前で虚を倒されなければ、死神だなんて絶対気付かなかった。

更木や草鹿に比べてあたしの住んでいた場所はは物質的には豊かだった。
けれどその分心は荒み、渇ききっていた。
非力な子供が虚に襲われていても、大人たちは笑って見ているだけで。
あたしのちっぽけな霊力なんかじゃ何もできなかった。

虚は泣き叫ぶ子供をオモチャで遊ぶかのようにいたぶって、あたしは助けたいのに何もできなくて。

『…目を潰れ!』
「?!」
『煌々たれ…月読!』


喰われる、誰もがそう思ったとき、あたしは誰かの腕の中にいた。
背を向けていてもわかった、とてつもなく眩しい青白い光。
巨大な霊力。
それはとても一瞬で、気が付いたらあたしの目の前にいた虚は消えていた。

『大丈夫?どこもけがはない?』
「う…っ、うわぁ…っん!ん、ひっく…」
『よしよし…もう泣かないで…』

助けられた子供(その子はあとで斎だとわかったのだけれど)に抱きつかれた死神はとても綺麗な人で。
もう一度様に会うまではあたしはこの人をずっと女の人だと思っていて、この人より綺麗な人は居ないと今でも思っている。




真央霊術院から合格通知が届いたのは、様に出逢ってから3回目の冬だった。







「雪姫!お客さんだぜ!」
「お客様って、誰よキリト?」


真央霊術院で、あたしは初めて【親友】と呼べる存在が出来た。
それが御影キリト。
男っぽくて、気性が激しくて、それでも大切な親友。
山本総隊長の孫(曾孫?)なのに、流魂街出身のあたしを蔑んだりしない。
人と合わせるのが苦手なあたしをいつも助けてくれる。


「零番隊のだぜ。相楽、お前と知り合いだったのか?」
って…零番隊副隊長のことよね?氷室…」
「そのの他にあんな美人居ねーと思うけど」


キリトの従兄で様の知り合いだという氷室颯も、真央霊術院に入って出来た【親友】だった。
二人とは桃や阿散井、吉良と同じような関係…つまり同期だった。


「あんな有名な人が、あたしになんの用なの?」
「知らねーよ」
『颯、まだなの?』
「…あ!」


教室の扉の前に居たのは、あの時の死神だった。


『相楽…雪姫さん、だよね?俺のこと覚えてないかな?』
「忘れるわけ…ありません…!」


あんなにも巨大な霊圧を纏う死神を。
こんなにも綺麗な死神を。
あたしに命をくれた、貴方を。
忘れる事なんて、出来るはずがない。


『あの時君がすごい霊圧を持っていたから、ずっと心配で時々見に来てたんだけど』


虚に襲われやすいから気を付けてね、と様は言った。


さ…あ、すみません!」


様、なんて馴れ馴れしすぎるだろうと思った。
なのに貴方は。


『良いよで。その代わり雪姫って呼ばせてもらうけどね』


そんな綺麗な笑顔であたしの名前を口にするから、胸が熱くなってしまった。






あれからすぐに、あたしは裏挺隊、キリトたちは零番隊に入隊した。

やっぱり様はとても綺麗だった。

どんなときもそれは当然だったけれど。

様と居るときが、一番綺麗だったから。

あたしの淡い想いは、零番隊に入る前に憧れや崇拝へと昇華していた。





「…これが、あたしの初恋のお話」
「さすがの雪姫も、さんには敵わなかったってことか〜」
様も慕っているけど、様だって大切な人よ、あたしにとって」


零のみんなが、死神が、人間が。
生けとし生ける者の全てが、あたしにはとても大切なもの。

だからあたしは零番隊の相楽雪姫として有り続けたい。

大切な貴方に、仕えるために。
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