BLEACH




『お前ら、親は居ねーのか?』


そう言って頭を撫でてくれた手は、とても大きかった。





「「た〜い〜ちょ〜おっ!!」」
『のわっ?!』
『うわ……っ、、大丈夫?』
『あ、あぁ……こそ潰れてねーよな?』


千秋と千春がに飛びつき、飛びつかれたの方へ倒れこむ。


「やっぱりハルちゃんに抱っこしてもらう〜!」
「じゃーアキが隊長におんぶしてもらうね〜!」


「相変わらず千秋と千春は甘えん坊よね」
「なんかさんとさんが父親と母親に見えるわぁ」
「(……様が、母親?)」
「あー……そりゃ、さんが母親なんて有り得ないだろ?」
様が母、というのが一番しっくりきますわ。だって零の母ですもの」


千秋と千春はいつも2人で1つ、という感じである。
兄の千秋はにおんぶをせがみ、妹の千春はに抱っこしてもらうのがお気に入り。
元々女に間違えられると、美人だがタッパがあるため男にしか見えない
義骸に入って現世に行くと、まず恋人にしか見られない2人。
それにプラスして童顔の双子がいると、家族としか言いようがない。
キリトと雪姫が歩いていても美男美女カップルと間違えられるが(キリトは女である)、の美女っぷりには敵わない。


「ね〜ね〜ちゃん、膝枕して〜?」
『ダーメ。の膝枕は俺だけのなんだよ』
「隊長ずる〜い!ハルも膝枕してほしいの〜っ!」
「千春、様が困ってるでしょ?」
「俺が肩車してやろうか?」
「やった〜!キリちゃん好き〜っ!!」


の腕の中から飛び出してキリトの肩によじ登った千春。
千秋は蓮の持ってきたお菓子に齧り付く。
家族で例えるならは父、母は
長男が颯で、長女は雪姫。
キリト・隼人は次女・次男。
斎・蓮は三女は四女。
そして千秋・千春が三男と五女の末っ子組である。
末っ子たちには皆甘く、過剰すぎるくらいに可愛がっている。
特に雪姫・隼人・斎・蓮は流魂街出身。
身寄りのない者はいっそう双子を可愛がっている。


「そういえば、もうすぐ斎と蓮の誕生日だよな?」
『そうだね。斎と蓮と出会ってからもう何十年経ったんだろう』


斎と蓮は、裏挺隊に入隊した日を誕生日としている。
隼人は修兵と出会った日。
雪姫は、に名前を貰った日。


「千秋と千春の誕生日ももうすぐよね。一体何の日なの?」
「「アキとハルの誕生日は、隊長に拾ってもらった日なの〜」」
「拾ってもろたって……イヌネコやないんやから」


降りしきる雪の日。
南流魂街八十地区「海老名」もまた、血と争いにまみれた場所であった。
生きるために盗みをはたらき、それで大人たちに殴り殺されそうになったこともある。
2人身を寄せ合って震えて、死を恐れた。


「アキたちね、お父さんとお母さんに苛められてたの」
「毎日殴ったり蹴ったりされて、それで」


家庭内暴力、虐待。
それを最早当たり前のように受け止めてしまった自分たち。
けれどあの日、階段から突き落とされて死んでしまった。

元々は現世で生きていたのに、親に愛してもらえなかった。
流魂街でも、互い以外に頼れるものなど居なかった。

そんな時に、に拾われた。


『お前ら、親は居ねーのか?』
「だ……れ……?」
『俺は。お前らは?』
「こっちは千秋で、こっちは妹の千春……」
『ん。兄貴が千秋で妹が千春だな』


そう言って肩に掛けてくれたのは白い羽織。
その温かさに思わず涙がこぼれた。

手を引かれるままに連れて来られた場所がここ。


『「……(様)の隠し子(ですか)?」』
「え、マジッスかさん?!」
「「(さん/様)のことは(どないする/どうする)んですか?」」
「(まさか……)」


真顔で言ってのけたと雪姫の言葉に、キリトが大声を上げる。
隼人と蓮の言葉には、斎が不安そうな顔をした。


『お前ら人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇ!俺がを捨てるわけねーだろ?!』
……嬉しいんだけど、今のツッコミ何か間違ってるから。お腹空いてない?寒くない?眠くない?』


が差し出した飯を夢中で食べ。
雪姫とキリトに風呂で体を洗ってもらって。
斎と蓮に添い寝をしてもらって眠った。
みんなの優しさに、また涙がこぼれた。

は雄雄しく、強く、父のようで。
は母のように優しく包み込んでくれる。
雪姫は御伽噺を、颯やキリトは遊びを、隼人は読み書きを教えてくれた。
斎は動物の手懐け方を、蓮はお菓子の作り方を教えてくれた。

零のみんなに、育ててもらった。


「アキね、ちゃんが男で良かったな〜って思うの。ね、ハル」
「だって隊長と結婚しても子供できないもんね〜」
「(千秋、千春……様は男だけど事実上様の奥様でしょう?)」
「でも斎ちゃん、子供はできないもん!だからい〜の!」


の首にしがみついて千秋が笑う。
千春は反対側にしがみつき、に頬擦りをする。
は苦笑しているの顔を見やると、思いっきり溜め息を吐いた。


『こんなに子だくさんじゃ、俺、疲れちゃうなー……』
『俺はできた奥さんと可愛い子供が居て幸せだけどな』


が寄り添って笑っているたび、千秋と千春は嬉しくなる。
彼らに育てられたことが、何よりも幸せだから。
血は繋がっていないけれど、与えられる愛情は本物だから。


「おーい、久里屋の羊羹もらったんだけど……」
「「わ〜い、颯ちゃんだ〜!!」」
「うぉッ?!」
「ひ、氷室?!大丈夫?!」
「雪姫ちゃん、颯ちゃんはこんなんじゃ死なないよ〜?」
「更木隊長じゃないんですから、やちる……」


零は2人にとっても帰る場所。
ここには大切な家族が待っていてくれるから。

あの時の手の温もりを、絶対忘れない。
<<