BLEACH
轍
「…様、様があの状態になってからもう四刻は経ってますけど」
『そうだね。どうしよう…』
は立ち上がると軒先にいるの傍に歩み寄る。
雪姫はまた書類に取りかかり、キリトは千秋・千春と遊び始めた。
今日は特に急ぎの仕事もなく、零はほとんど開店休業状態。
だからこそはを放って置いたのだが、さすがにずっと外にいたら風邪を引きかねない。
『。中に入らないの?』
『あぁ』
『全く…』
はため息を吐き出しての隣に腰を降ろす。
『、何か悩みでもあるの?』
『別に悩みがあるわけじゃねーんだけど…俺にとってのお前って、どういう存在なのかなって思ってさ』
それは十二番隊副隊長の一護に頼まれて、十二番隊長の浦原を見つけだした時のこと。
浦原は零番隊の隊舎に続く廊下で見つかった。
『喜助…てめーにちょっかいかけるつもりじゃねーだろーな?』
「サンにとって、サンはそんなに大事な人なんスか?」
『何言って…』
のニラミに対していつもの笑顔ではなく、真顔で問いかけてきた。
その視線の鋭さに、思わずは言葉が詰まる。
「サンにとって、サンは何なんですか?」
浦原の真剣な声に、は答えることができない。
浦原はしばらくを見つめていたが、が何も言わないので軽くため息をついた。
「ま、良いんスけどね…私には黒崎サンが居ますし、市丸サンには吉良サンが居る。今日はもう大人しく引き下がります」
そう言って浦原は去っていったが、はしばらくその場を動けずにいた。
親友、仲間、上司と部下…どれも当てはまって当てはまらない。
本当に大切で、誰よりも大切で。
『今度は喜助にちゃんと答えられるようにって考えてたんだけどさ…考えれば考えるほどわかんなくなった』
悪りぃ、とうなだれるに何故かは笑い出す。
『、それって俺はにとって“一言では言い表せないくらい大切”ってことじゃないの?』
それは他人が聞くとかなり自意識過剰な言葉だったが、はあぁ、と納得した。
いつの間にかなくてはならない存在になっていた。
祖父を亡くしてどうしようもないくらい落ち込んでいたとき、心の支えになってくれていた。
の優しい言葉は、の胸にしみこんでいく。
の柔らかな笑顔は、の心を癒す。
『ねぇ、俺にとってはとても大切な人だよ?二人が出会わせたのも、きっと運命だったんだよ』
『…熱烈な愛の告白だな』
に迫られたら、どんな人間でも堕ちるだろう。
実際もに言われて、少し顔を赤らめて苦笑した。
『俺、のこと愛してるぜ』
『…なんか誤解されそうな台詞だよね』
『護廷十三隊と裏挺隊公認だから良いんじゃねーの?』
夫婦だとか相棒だとか、二人はいつも一緒に居るのが自然なんだとか。
の傍に居ることを認められていることがとても誇らしくて、嬉しい。
『ねぇ知ってる?今日は、俺とが初めて秘密の場所で会った日なんだよ』
『忘れるわけねーだろ?今日はがうちの副隊長になった日でもあるんだから』
昔の今日、秘密の場所ではを見つけ、はを自分の傍に置いた。
『でも、月読が村正に共鳴してが泣くなんてな…』
『だって、本当に胸が苦しくなったんだから』
あのとき誰も気付くことの無かった、心の叫びに気付いてくれた人。
自分の代わりに泣いてくれたを、は愛しいと感じた。
から鬼道を学び、共に過ごすうちにの荒んだ心は潤っていった。
「様、様。そろそろ中に入りませんか?お茶でも入れますよ」
中から雪姫がたちを呼ぶ。
九番隊に行っていた隼人も、裏挺隊に行っていた蓮と斎も帰って来ていた。
千秋と千春はキリトの膝の上で眠りこけている。
『ありがとう雪姫、入ろう?』
『そうだな…』
『何?』
『またいつか、二人で秘密の場所に行こうな』
の言葉には返事をせず、代わりに満開の桜のような笑みで微笑む。
『運命、か…』
今度浦原に会うときは、同じ問いをされてもちゃんと答えられそうだとは思った。
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