BLEACH



今日はたまたま颯と俺の非番の日が重なっていた。




「そういやキリトって今日非番だったんだな」
「あぁ、さんが隊のヤツら全員に休暇取らせたんだよ」
「で、相楽は?一緒じゃねーのか?」
「砕蜂とどっか行った」

うちの三席は以前隠密機動に勤めていて、砕蜂と仲がよい。

「相楽もよくやるよな。裏廷隊なんかのどこが良いんだか」
「雪姫に言わせれば十一番隊のどこが良いかわかんねーみたいだぜ?」
「なんでだよ?」

颯は全くわからないという顔で俺を見てくる。
確かに剣八率いる十一番隊は俺たち零番隊と違って荒々しくて勇ましい。

「大体キリトだって十一番隊に行きたいってぼやいてたじゃねーか」
「まぁなー…」

書類を書くより虚と戦う方が俺には向いている。
ごめん重じぃ、俺はじーちゃんが望むようなおしとやなか女性になんて到底なれそうにない。

「でも颯は別に零に不満があるから異動願い出したんじゃねーんだろ?」
「まぁ、強いていえばやちると剣八にほだされて十一番隊に行っただけだしな…」

戦時特令無しに護廷内での抜刀を許され、中央四十六室及びその他のどの機関も一切干渉することが許されない零番隊。
零の隊員が従うのは隊長であるさんに対してだけで、実際は総隊長の重じぃよりも立場が上だったりする。

「報告書書かなくて良い隊なんて零以外にはまずないぜ?」
「俺もそれは思った」

うちの隊長は「人には向き不向きがあるから」と言って隊をデスクワーク型と戦闘型の二つに分けている。
俺も颯も戦闘型で、報告書や始末書は雪姫に書いてもらっている。
…雪姫は事務が駄目な部下の俺にとっては最高の相棒だと思う。

『あ、居たいた。キリト、颯、更木が探してたよ?』

さんが少し死覇装を乱してこっちに駆け寄ってくる。
…やちるがさんの首にぶら下がってるのは気にしないでおこう(どうせやちるがおんぶをせがんであぁなったんだろーし)。

「剣八が?なんの用だって言ってた?」
『さぁ…あんまり更木と居たくなかったから逃げてきたけど』

剣八は一護やさん、さんを見る度に斬りつける。
そして毎回返り討ちに会う。
あいつは学習能力というものがないんだろうか・・・もっとも、俺もあるとは言えないけど。

「なんではそんなに死覇装乱してんだ?」
『銀髪キツネ目細面のせいでね…』
「市丸か…」

さんはそこらの女(俺とか)よりも美人で、その容姿と強さゆえに市丸ギンや浦原喜助に異常なほどに好かれている。
さんが傍に居るときはともかく、一人になるとかなり危ない。
さんも、さんみたいな女顔ではないけれど美人である。
さんが迫力のある華やかな美人なら、さんは可憐な少女のような美人。
もっともさんは気性が荒いしさんみたいに女と間違えられることはまずない。

「で、市丸は?」
『月読に任せてきた』

月読、とはさんの刀のことで、具現化すると鳳凰になる。
大抵は村正(さんの刀で、具現化すると黒麒麟になる)と一緒に居るけれど、主の危機となるとその大きな炎の翼をはためかせてやってくる。

!お前また市丸に襲われたんだってな』

さんが瞬歩を使って現れる。
やちるが「ちゃんだー」と言って飛びついてきたのをいとも簡単に肩車した。
さんもやちるによく肩車せがまれているから慣れたらしい。

『村正がに言ったのか…。いつも通り未遂だったよ』
『当たり前だろ!何かあってからじゃあ遅いんだよ』

さんは鬼道衆を統括するほど鬼道の才能は群を抜いていて、剣術はさんが一番だけど鬼道ならさんが最強だ(白打は二人とも恐ろしく強い!)。
力ならさん、速さならさん。
その強さはさんが一番わかっているはずだけど、確かに何かあってからじゃあ遅いよな。

『それより、総隊長に呼ばれてたんじゃなかったの?』
『あぁ…雪姫を隠密機動に返せって夜一が言ってきた』
「相楽を裏廷隊に?」

颯が大声を出す。
さんは少し驚いたけれど話を続ける。

『雪姫って夜一の秘蔵っ子だし、零ってあんまり出動しねーだろ?それなら刑軍の副軍団長にしたいって夜一が言ってんだ』
「で、はどうする気なんだ?」
『雪姫が戻りたいならそうする気だけど。ってか、颯はなんでそんなに焦ってんだ?』

さんは着痩せはするけどちゃんと綺麗に筋肉が付いていて、実はかなり体格が良い。
背も高いから颯と同じ目線で話すことができる。

『お前と雪姫ってさ、犬猿の仲ってわけじゃねーけど仲が良いわけじゃないだろ?』
「それはそうだけどよ…」
『…俺は雪姫が居なくなったら寂しいな。裏廷隊に戻るとさ、なかなか会えなくなるし』

さんは颯の傍に立つと、颯の気持ちを遠回しに代弁してさんに伝えようとする。

がそんなこと言うのって珍しいよな』
『だって雪姫が居なくなるのは嫌だからね。颯もそう思わない?』
「ま、まぁな…」

零の中で一番聡いのがさんだ。
心を読まれた颯は少し複雑な顔をした。

様、呼びましたか?」
『あぁ。雪姫、お前に裏廷隊から復帰要請が来てるけどどうす…』
「お断りします。あたしは死んでも零から出ていく気はありません」

雪姫はきっぱりと言い切り、その姿はとても勇ましかった。

『そっか。じゃあ夜一に伝えとくから』
「お願いします」
「…良いのかよ、相楽?」
「何が?」
「裏廷隊に帰りたいんじゃ…」
「氷室、勝手に決めないでよ。あたしは零番隊相楽雪姫、それ以上でもそれ以下でも無いわ」

雪姫ははっきりとした口調で言った。
そして言葉を続ける。

「あたしは自分の意志で零番隊に居るの。これからもそれは変わらない」
『そうだね。雪姫は雪姫だ…これからも雪姫は零番隊の三席だよ』

さんが雪姫の頭を撫で、肩に手を置く。
やさしく微笑むさんはとても綺麗で、とても力強かった。

「雪姫姉ェ」
「白ちゃん」
『あれ、冬獅郎どうしたの?雪姫に用事?』
に用があったんだけど、雪姫姉ェが居たから呼んでみただけだ」

銀色の髪に、翡翠の瞳。
雪姫と冬獅郎はよく似ているけれど、実の兄弟ではない。
2人とも流魂街出身で、よくある「共同生活」で雪姫が冬獅郎の姉代わりだったのだ。

、鬼道衆の奴らがお前を捜してた」
『本当?あのことかな・・・、俺しばらく帰れないかもしれない』
『は?なんで?』
『それは・・・』
「お屋形様!」

鬼道衆の奴がさんを迎えに来た。
見たところまだ100年も生きていない少年だった。
鬼道衆の死神たちが着ているのはは死覇装ではなく、雪姫のような刑戦装束でもなく。
浄衣というのを着ていて、護廷十三隊の場所に居るととても目立つ。
ちなみにお屋形様とはさんのことだ。
瞬神夜一が軍団長閣下ならば、なぜかこっちはお屋形様。
さんいわく、『元々俺の家は鬼道衆総司令官を務めてるから』だそうだ。
葛城家は藤堂や四楓院など四大貴族とよりも霊圧が高く、王族に入る高貴な血筋らしい。

“鬼道衆はだいたい葛城の家系で構成されているからね。だからお屋形様って呼ばれてるんだよ”

仕事場でも家でも扱いは同じだよ、とさんはいつか言っていた。

「お屋形様、すぐにお戻り下さい」
『わかった・・・じゃあ、そういうことだから』
『ちょっと待てよ。それじゃ納得がいかねぇな。ちゃんと説明しろ』
「なっ・・・貴様!お屋形様に向かって無礼な!」

少年が顔を真っ赤にさせて声を張り上げる。
さんを侮辱されたと思っているらしい。

『・・・橘(キツ)、あとで行くから先に行ってなさい』
「お屋形様?!しかし・・・」
『橘』
「っ、わかりました・・・お待ちしております」
『良い子だね。橘は』

橘と呼ばれた少年はさんに頭を撫でられて少し笑顔を見せた後、俺たちを睨んでから消えた。
橘も葛城に使える一族の人間で、瞬歩よりも高速で動く術を使えるらしい。

『みんなごめんね、橘はとても良い子なんだけど・・・』
さんが大好きなんでしょう。誰も気にしてませんよ」
『ありがとう、キリト』
『・・・で、なんでしばらく家に帰れないんだ?』
『そんなに怒らないでよ。ただの厄よけみたいなものだから』
『そんなのにが手を患わせることねぇだろ?』
『・・・これは葛城の長がするってしきたりなの。だから俺にしかできない』

さんは怒っている・・・というより拗ねている。
さんは困ったように微笑んで、さんの傍へ歩み寄った。

『帰ってきたら、鍛錬でもなんでも付き合うから・・・な?』
『・・・どうせお前は鬼道衆総司令官だもんな』
『?!、俺は鬼道衆総司令官でもあるけど零の副隊長でもある!』

さんが声を荒げるのは珍しい。
さんも久しぶりだったのですこし驚いている。

『どちらかを選べって言われたら無理だけど・・・それでも、俺は零が大切だよ』
『・・・悪かった、

そう。
零の隊員は、何よりも零が大切で、零のためなら命を捨てられる。
俺も、零の一員になったときからさん、さん・・・みんなの為に刀を握ると誓った。
それは雪姫もさんも同じで。
だから雪姫は裏廷隊より零を選んだし、さんはなるべく零で過ごすようにしている。
鬼道衆を率いるということが、一族を束ねるということがどれだけ大変かさんは知っているから。

『なるべく早く帰ってよこいよ』
、俺とも戦ってくれよな」
「久しぶりにあたしも相手して欲しいです」
「俺も俺も!さんとしたいです!」

さんが零へ誓った忠誠はとても深く、厚く、強い。
それはまるで、俺たちの絆のように・・・。
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