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周りのメンバーがあまり変わってなくて、緊張も感慨も無かった去年の入学式。
今年新たに入ってきた一年生も、中等部の時に見た顔ぶればかりで。
式の間、ずっと退屈で仕方が無かった俺の眠気を覚ましたのは。
『……』
思わず声を掛けることさえ躊躇われるような、幻想的な光景。
今、自分がどんなに視線を浴びているかも知らずに、はただ桜を見上げていて。
遠目には粉雪が降っているようにも錯覚してしまう染井吉野の桜吹雪の中、は確かに俺を見て微笑んだ。
「あの、先輩呼んでくれませんか?」
「、お呼び出しだぜ〜」
『誰……あ、』
「の知り合い?」
『同じ委員会の後輩だよ。とりあえず、どこか行こうか?』
「は、はい!」
の後を追いかけようとする1年生。
俺の視線に気づいたらしいそいつは、俺をにらみつけてきた。
俺という恋人が居ても、未だにはもてる。
本人は自分の魅力に全く気づいてないが、しょっちゅう色々な奴らに呼び出されている。
俺や友達、バスケ部の奴らが全力をあげてそれを阻止しようとするけれど、全部が全部そうできるわけじゃない。
「あ、あの、ぼく、先輩のことが、ずっと好きでした!」
成長期に入って身長が少し伸びたは、ずっとずっと綺麗になっていて。
もう女の子扱いはされないけれど、その代わりに可愛い系の男や女の子にも告白されるようになった。
告白した1年生は上級生の間でも人気があるほど可愛くて、の傍に居ても霞みはするが決して釣り合わないわけではなくて。
とそいつからは死角に当たる場所でその様子を見つめながら、俺は内心気が気では無かった。
『ごめんね。俺、の恋人だから……君の気持ちには答えられない』
今にも泣きそうな1年生を優しく抱き寄せて、耳元で囁いて。
でも、こんな自分を好きになってくれてありがとう、とふわりと微笑んで。
ついに泣き出してしまった1年生が泣き止むまで、ずっとの胸くらいにあるその頭を撫でていた。
それがどんなに残酷な優しさであっても、は綺麗に笑っていて。
1年生の肩を抱いているの後姿を、俺はただ見つめていた。
『、ちょっと』
『?もうすぐ授業が始まっちゃうよ、もう……』
少しだけふて腐れるような顔をしたあと、すぐに繋いだ手を握り返してくる。
俺に向けられたのかに向けられたのかわからない視線をかなり浴びながら、さっきの場所まで駆けていく。
お姫様を連れ去った不埒者(俺)は後でクラスの奴らから制裁を受けるのだけど、今はどうでも良かった。
『、、早いよ』
『あ、ごめん……って、俺の恋人だからいつも断ってたのか?』
『え?』
『だから、俺の恋人じゃなかったらアイツとか他の奴と付き合ってたのかよ?』
『何言ってんの?そんなことあるわけないだろ?』
元々幼馴染だった俺とは、恋人に昇格しても何かが変わるわけではなくて。
は優しくて本当になんでもできて完璧で、俺なんかとは釣り合わないんじゃないかと思うくらいで。
『ずっとが大好きだったよ。に彼女が出来たときも、告白されているときも辛かった』
『嘘だろ?はいつも笑ってたじゃねーか』
『じゃあ茱璃は自分が告白される度に、幼馴染に泣かれたらどう思う?うざいだろ……』
だったらうざいなんて思わない。
他の奴らとは別格だ。
大切で、宝石が壊れないようにそっと優しく守ってきたつもりなのに。
『のことずっと見てたよ。でも、言うつもりは無かった』
『……意味がわかんねぇ』
『だって、言わなかったらずっと幼馴染として傍に居られたから。恋人なんかよりもずっと長く居られそうだったから』
俺に背中を向けて話すの表情がわからない。
『俺、のこと本当に好きだけど。でも永遠の恋、なんて信じられないんだ』
いつか、人魚姫のように、この想いも泡のように消えてしまうのではないだろうか。
それが不安でたまらなくなる、とは言う。
『……こんな思いするなら、いっそ幼馴染のままで居たら良かったね』
『本当にそう思ってんのか?』
『どうだろう……』
そっと重ねられた唇の感覚と、甘いシャンプーの匂いは一瞬にして消え去る。
現実のはずのそれが、今は夢のように思えた。
という恋人は、今確かにこの腕の中にいるのに。
(
蝉時雨と対になっております)
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