Eden

- JEWEL -



顔が綺麗だと言われても嬉しくはなかった。
人形のようだと褒められると、人間ではないと言われているようだった。


「いつ見てもはキレーなぁ」
「死ねアホ」


けれど、この幼なじみが紡ぐ言葉だけは素直に受け入れられる。


「……の方がよっぽどキレーや」
「は?今なんか言ったか?」
「なんも言うとらんわ」


に出会わなければ、誰も人形に命を吹き込んではくれなかった。


ー、とりっく・おあ・とりーと!」
「金ちゃん、もうちょっと英語らしく喋らんと。Trick or treat ? やろ」
「無理や、ワイ巻き舌できひんもん」
「巻き舌使ってないし、ケンカするときめっちゃ巻き舌やん」
「そういやそうやなー。な、タコ焼き食べたい!」
「金ちゃん、ハロウィンとタコ焼きは関係ないやろ」
「あ、や!」


にしては珍しく、が起こさなくとも部活にやって来た。


、とりっく・おあ・とりーと!!」
「金ちゃんのイタズラは怖そうやからなー。はい、俺とから」
「ポッキーや。2人ともおおきに!」
「それもって中等部に帰り」
「わかった!またなー」


赤い小箱を大事そうに抱え、金太郎は走っていった。
小さな背中を見送ってから、ふと気付く。


「お菓子なんか持ってたら、白石が怒るんちゃうか?」
「あー、高等部にも来てたし毒手かもしれんなぁ。な、
「なんや?」
「Trick or treat ?」
「……俺が飴ちゃん持っとらんの知ってて聞いとるやろ」


周囲には驚かれるが、はいつも何かしら飴を常備している。
今日に限ってストックが切れていて、10月31日がハロウィンであることも忘れていた。
金太郎に襲撃されるまで、全く思い出すことさえなかったのだ。


「千歳と授業サボっとったらハロウィンの話になってなー。金ちゃんにも教えたって言うから」
「あいつ、ガタイに似合わず可愛いもん好きやな……ってか後輩とサボるなや」
「でも、そのお陰でポッキー買って来れたんやで?」


確かに、が居なければ金太郎に何もやれなかった。
けれど、が今お菓子を持っていないことに変わりはない。


「……どんなイタズラする気なん」
「えー?どんなんにしよっかな」


そう言って笑うの顔は悪どい。
思わず後ずさるが、すぐに捕まって腕の中に閉じ込められた。
幸い、他の部員たちはまだ部室に来ていない。

の顔を間近で眺め、は満足そうに笑う。
その後に告げられる言葉は、きっといつもと同じ。


「呆れた顔してもキレーやで」
「呆れられてるって解かっとるんなら離さんかい」
「ええやん。減るもんじゃなし」
「俺の体力が減る……」


力でに対抗しようとは思わない。
溜め息を吐いて、大人しく身を委ねる。


「笑っても泣いても怒っても、はキレーやなぁ」
「そんなん気付くんはぐらいやわ」


他の人間が、の表情の変化気付くことはまず無い。
だからこそ、の前では人間でいられる。


「……、ありがと」
「俺、なんもしとらんで」
「ええねん」
「なんやそれ?」


の心より綺麗なものを、は知らない。


- 執筆中 -



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