夢幻抱擁。

- 心臓が、高鳴ることを覚えた -



ザッ、とボールがゴールネットをくぐって落下する。
審判が親指と人差し指、中指を立ててから振り下ろす。
スリーポイントカウントの合図だ。


「ついにダブルスコアか」
「そうや……そーだな。先輩たち容赦ねー」
「あ、ちょっと関西弁に戻っただろ」
うざっ」


ここのバスケットボール部恒例の、新入生“歓迎”試合。
入ったばかりでフォーメーションどころかチームワークもなってない1年生チームと、2・3年合同の上級生チームが対戦する。
交代選手の枠も制限されていないから、ひと学年分の人数差はもろに試合に響くし。
場所が変わると、リングまでの距離感とかシュートするときの感覚とかが変わったように思えるし。
どっちの分が悪いかなんて、というか悪すぎるなんて嫌でもわかる。


「まぁでも、推薦組なだけはあるよな。マンツーでは先輩相手に負けてない」
「俺らの学年、全中大会常連校のスタメンで揃えてきてるしな」
はすぐに連携取れるだろーけど、俺はどうだろ」


うちの学年は東日本を中心に集められたプレーヤーばかりで、関西圏出身はだけ。
俺にとっては何度かチームを組んだことのある連中でも、とは接点のないヤツばかりだ。
さすがのでも、すぐに連携を取るのは難しいだろうなとは俺も思う。

俺だって、とは今日の入寮式で久しぶりに会ったわけだし。
ミニバスでの試合以来こまめに連絡を取ってはいるけれど、知らないことのほうが多い。


「そういえば、」
「ん?」
「足、大丈夫か?」
「は?あー、大丈夫、多分」


足をケガした状態で全中大会に出場して、見事連覇を飾ったのはの伝説のひとつ。
あれだけ普段より動けてなかったのにMVPと得点王まで取るんだから、準優勝校の主将としては複雑な気持ちだけど。
俺個人としては、さすがだよなって思わず笑ってしまった。


あのとき痛めていた足首は、今でも一応テーピングが巻かれている。
手首にはリストバンドタイプのサポーター。


「満身創痍だな」
「監督とかコーチが過保護すぎるんだよ。もう治ったって言ってんのに」
は……なんか華奢だからじゃねーの」
「はァ?」


180cmという身長は、バスケをやっている人間の中では小さい部類に入る。
そもそも欧米人に比べて日本人は体格も良くないし、このチームでもは華奢なほうだし。


「……中学のときはデカいほうだったのに」
ー、ー。次、交代な」


せっかくの綺麗な顔をしかめたままのとコートに入る。
誰かが言ったわけでもないけど、PGはやっぱりがすることになった。


「さっきと同じで、フォーメーションとか無しでラン&ガン。それで良いよな?」
「せっかく2人が入ったんだから、中はが攻めて、外からが打てばいーじゃん」
「で、俺らはオフェンスリバウンドを積極的にする。みんな、それでいいよなー?」


他のメンバーから賛成ー、とかOKーとか、声が返ってくる。
せっかく確認したのに、とは少し膨れたけど、俺的には正直どっちでも良かった。


「東のと西ののコンビなんて、このチームすげー贅沢!」
「じゃ、頑張ってくれよ司令塔」
「……いざとなったら俺ひとりで突っ込むけど、ちゃんとボール見とけよ」


ゆっくりとボールを突きながら、視線はコート全体を把握しようとしている。
先輩たちものスピードを警戒してか、より重心を低くした。

ブザーが鳴って、ジャンプボールが始まる。
うちのメンバーがボールを制したのを視界の端で確認してから走り出すと、急に目の前にボールが現れた。


「へ?」


他のヤツも一瞬動きが止まる。
俺自身、なんでボールがここにあるのか分からない。
でも、気を抜けば捕り損ねてしまいそうなくらいにキツいスピードとタ位置、そしてタイミング。
こんなキレイに通るパスを出せるプレーヤーを、俺は一人しか知らない。



、ボケっとすんなって言っただろーが!」
「!」


の怒声に顔を上げると、予想外に近くにあるゴールと足の止まった相手ディフェンス。
思わずシュートすると、めちゃくちゃなフォームの割に入ってしまった。


「パス捕ってシュートしないフォワード初めて見たぞ」
「いきなりパス来ると思わないだろ、フツー」
「ちゃんとボール見とけって言ったし、奇襲かけねーと勝てないだろ。次は手加減なしで投げるからな」


今まで見てきたのパスよりも、さっきのほうがキツかったと思うのに。
あのパスで手加減していたのなら、本気のパスはどれくらい速いんだろう。


、ボーっとしてんな。今のリーダーお前なんだから」
「あ、あぁ……みんな、こっから追い上げるぞ!もさっきみたいにどんどんパス回して」
「あんなパス、お前以外に出すかよ」
「え?」


がFWじゃなくてPGの理由が分かった気がする。


「俺が本気でパス出す意味、ちゃんと考えろよ」


この笑顔を綺麗だと思ったのは何度めだろう。
確かなことは、これが、俺との始まりだった。


- 執筆中 -



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